見た目はSlackに近いのに、中身の設計思想がまったく違う。
ジャック・ドーシー氏が率いるBlockが公開した「Buzz」は、人間だけでなくAIエージェントにも固有の暗号鍵を持たせ、誰が何を実行したかを署名付きで記録する仕組みを採用しているのだそうで、SlackやGitHubを日常的に使っている人からすれば、似たようなチャットツールがまた一つ増えたようにも見えるのですが、そこに込められているのは「仕事の基盤を特定企業のサーバーから切り離す」という、かなり踏み込んだ狙いのようですよ。
SlackやGitHubに寄りかからない仕事場を目指す発想
Buzzは、Block(旧Square)が公開したオープンソースのグループチャットプラットフォームで、チャンネル、スレッド、DM、音声通話、コードリポジトリ連携までが一つのUIにまとめられていて、Apache 2.0ライセンスで無償公開され、自前のインフラで動かすことも、Block側が用意するマネージド版を使うこともできるようになっています。
この背景にあるのが、ドーシー氏が長らく続けてきた「特定プラットフォームへの依存を減らす」という考え方のようで、Twitter退任後もNostrという分散型プロトコルまわりのツール開発に関わってきた流れの延長線上に、Buzzは位置づけられているようですね。
SlackやGitHubは便利なのですが、仕事のやり方そのものが一社のサービス仕様に縛られているという感覚を持つ人は少なくないですし、Buzzが投げかけているのは、その前提を作り直せないかという思想。
面白いのは、Salesforce(Slackの親会社)やMicrosoft(GitHubの親会社)にとって潜在的な競合になり得ると受け止められている点で、Slackの買収額は約277億ドル、GitHubは75億ドルという規模で買われた基盤に対して、まったく別の設計思想を持つオープンソースツールがぶつけられているという構図は、それだけでニュースの価値がある。
AIエージェントに鍵を持たせるとは、どういうことか
Buzzの核心は、AIエージェントを「固有の鍵を持つチームメンバー」として扱う設計にあり、Nostrという分散型プロトコルの上に構築され、人間だけでなくAIエージェントにも公開鍵と秘密鍵のペアが割り当てられるのだとか。
すべての操作はその鍵で暗号署名され、後から検証可能な監査証跡として残る仕組みで、さらに、AIエージェントの鍵には人間の所有者と紐づく二次的な署名が設定されているのだとか。
つまり、あるエージェントが何かを実行したとき、それがどの人間の権限のもとで動いたのかまで追跡することができるようになり、仮にエージェントの鍵が漏れても、所有者本人のアイデンティティとは切り離してセッションを止められる設計になっているのだそうですよ。
これは、今のAI活用でありがちな「AIがレビューしてくれた」「AIが直してくれた」という曖昧な報告とは質が異なり、誰が承認し、どのエージェントが何を実行したのかが署名として残ることによって、コードの変更履歴やチームの意思決定プロセスに対する説明のしかたが大きく変わってくるはず。
すでに社内チャットにAIエージェントを組み込んでいるチームなら、「このコード変更は人間が本当に見た上でのものなのか」がなんとなく曖昧なまま運用している状況に、心当たりがあるのでは?
Buzzが提示しているのは、その曖昧さに鍵と署名で輪郭を与えるという方向性で、人間の責任が強くなってくるのは、かなりいいことなのではないかと思います。
なんでもAIのせいにする人、いますからね・・・。
まだアーリーステージであることも
現行バージョンは0.4.21で、モバイルクライアントはまだ完成していないようで、エンタープライズ向けの権限管理やセキュリティ認証の取得状況、料金体系といった企業が本格導入を検討する際に気になる部分も、現時点では明らかになっていません。
構造面でも割り切り必要で、Buzzは「モデル非依存・エージェント非依存」を掲げ、Anthropic Claude CodeやOpenAI Codex、Blockが独自開発したフレームワーク「goose」など複数のLLMを組み込める設計になっているとはいえ、各ワークスペースは単一のリレーの上で動く構成であり、「脱プラットフォーム依存」を掲げながらも、完全な非中央集権とは言い切れない仕組みが土台にあります。
とはいえ、こうした未完成さを差し引いても、動きとして興味深いのは、似た方向性のツールが他にも出てきていることで、暗号資産系のVCであるParadigmも「SlackのAIエージェント版」を掲げるオープンソースツール「Centaur」を発表していて、Slack・GitHub一強に見えていたコラボレーションツール市場で、AIエージェントとの協働を前提にした基盤の作り直しが、複数の方向から同時に始まりつつあります。
しかし、AI業界の動き方は本当に先が読めませんね。
2025年のAI時代が懐かしくなるほど、目まぐるしく状況は変わってきています。
ほんと、近いうちに、人間の首にプラグを差し込むようなことになるかもしれませんね・・・。

